ピクファン5 銀鱗亭の5コマ


全てが燃える 枯れ木は燃え落ち
鉄は溶けて、道となる



会戦に本格的参加した銀鱗亭
城塞宿の拠点メイムナーは たとえ戦場の只中にあっても「通常営業」である

これは宿設立から続く絶対のルールであり、宿の内部は外の世界と隔絶される
これほどの状態のおいても宿エリア メイムナー上部階層は平穏そのものだ

しかし下層はもはや血塗れの戦場(いくさば)
防衛班はもちろん 警備班すら動員されている
最下層の難民エリアは侵入路から近いため、絶対防衛目標の一つ
上部と下部に分かれる通路はあらゆる場所が最終防衛ラインである

現在進行形で侵入者を阻む両班であったが 同時に防衛班は
レディのオーダーである積極戦闘による戦闘の終結に寄与せよという
難題に立ち向かうべく 多くが戦場の只中にある

それでも進入を許していない、アラド・ミュール両部隊長以下、粉塵の働きが
宿を今この瞬間も宿たらしめていた
アルモニカを初めとしたエルダードラゴン達が本格的に参戦すると言うことは
もはや宿が宿としての機能を喪失する瞬間でもあった
それだけは避けなくてはならない



城塞宿内部では、それだけで無く前線への支援も行われる

前線に物資を転送する役目を担う
エルティ=フレアロットとヒザクラ=ノーザンラント2世の二人
そして後者のヒザクラは、モガミの給弾のため砲弾転送を行うのだ


彼女は連続の大質量転送に疲れを見せつつあった

肉体的疲労ではない
竜の血を持つ彼女の肉体は堅固であり スタミナは人並み外れている
彼女が送る砲弾が、少なくない人間を吹き飛ばす現実が ただ、辛かった

そして、万一モガミが撃沈されることあらば
乗員三名と直援二人を転送で脱出させ、モガミをは見捨てなければならない
1万トンを超える質量を転送するには命の危険が大であるからだ
それをアルモニカに厳命されたがゆえの苦悩

アルモニカは監督者として
1人を、妹分であるモガミを見捨て 5人の家族を救う覚悟を

モガミには、たとえ撃沈されたとしても救援はないという覚悟を

そしてヒザクラに1を捨て5を取ることを要求した



銀海でモガミを救おうとしたあの時
結局自分の力はなんら寄与することはなかった

海底でモガミと共に沈んだヒザクラを救ったのは
ライブラが探し当てて放たれたメイムナーの回収アンカーであり
アンカーと鞍の固定フックを繋いだのはマロウ
溺れ意識を失っていた両名を窒息から守っていたのはスレイブのバリヤだった

一万トン以上の質量をあの状態で
もしも転送に成功していたならば、自身の命も危うかっただろう
けれど、そんなことはどうでもよかったのだ、しかし
それは受け入れられなかった

大勢に生還を喜びと説教とともに迎えられた
うれしかった、だが悔しかった


拙は覚悟してカチコミする、ハイクを詠むその時は ノーヘルプ

ヒザクラ=サンのソウルは拙より重い、ノーハイク


そういって、そして反論には耳を傾けず、彼女は旅立った
自分のことはいいのだと、怒りと悲しみを込めて叫んでも
否しか応答はついに無い


確かに、自分には臣民がいる ノーザンラントの民が
無為に自身を危険に晒すなど、本来あってはならないことなのかもしれない

けれど、仲間を救いたい たとえ理想論といわれても

握り締めた銀鱗のエンブレム、それが決意の印だった


そしてヒザクラにはもう一つやらなければならないことがあるのだ
時がくれば、エルティに砲弾のことを頼まなければならない

祈りを込めて、請われるままに彼女は砲弾を送り続ける
たとえ この砲弾こそが、モガミに悪意を向けさせるものだとしても


「こんなもの、見つからなければよかったのに」


砲弾が放つ鈍い光、それが酷くおぞましいものに見えた






夜明け しかし終わりの到来を告げる光ではない ただの日の出だ

モガミ達にとって暗い悪夢の夜明けであり
これまで良いように撃たれ続けた両軍にとっては、光明の夜明けである


同時に行われた、両軍の進撃は嵐のごとく 巨大な津波となって迫る
三叉路は完全に抑えられ
後退を余儀なくされたガルガディア軍はもはや、受け止めるしかないのだ
逆撃を仕掛けるごとく、突撃するボーダルウォール騎士団や続く各騎士団


その中に、夜陰に乗じて後退し

ガルガディア軍の防衛ラインに達したモガミの姿もあった






一晩続いた砲撃で
トライガルド・ザイランス両軍を疲弊させたことは確実であったが
それを感じさせないほどに軍の勢いがあり
そのまま単独で丘陵に留まっては完全に包囲されてしまう

そう判断したルーナはミロニに後退を促したのだ
パーティーの中で正規の軍人経験があるのは彼女だけである

ミロニはその判断が正しいこと、無理をするべきでないことを理解していたが
ガルガディアと共闘するという点は一抹の不安を抱えた
セティもそれに同意を示す

銀鱗亭という立場の難しさからくるものだ

三国の敵でも味方でもない自分達は 常に後ろから撃たれる可能性を抱えている
事実銀海で盾に回ったモガミはガルガディア艦隊に撃たれており
女主人のオーダーは三国軍戦闘に明確に介入するものだ


味方とは みなされない


その危険性を冒してでも防衛線まで後退したのは
退路もなく囲まれれば
全員枕を並べての討ち死にするしかないからだ

今回は隠れる場所はない大地の上
いかに脱出のアテがあったとしても、全包囲されてはその隙もない

それでも、ガルガディアへの一方的な肩入れと見なされかねない
中立の立場を危うくする行為だ

これこそが銀鱗亭の抱えた捩れであった、手足を括られたまま戦わねばならない
それでも生きて帰る、それだけの強さが 彼ら彼女らに要求される

古竜でない、無力な人と若竜の集まりに待つ運命は限られる

もとよりモガミに近接武装は無く 対空武装も存在しない
直援はヒジリと彼女の竜シマシマ一騎だけであり
大軍勢との直接交戦など悪夢でしかない

状況的に心象はどうあれ
受け入れられるだろうという希望の元、到着したのは夜明け前



散弾で地形を変えながらガルガディア警戒ラインに達したモガミは
これまでの砲撃から友軍として受け入れられたのか
警戒はされながらも防御陣地までエスコートがついた

おっかなびっくり戦線に現れたモガミに
不思議なことにガルガディア将兵は思いのほか好意的であり
掘られた塹壕に身をひそめるボーダトーチカ郡の乗員達は
通過するモガミに両手を振りながら歓声と共に見送り
戦列の旗騎士達は戦闘旗を起こして出迎えた

待機場所は防衛用の大型ゴーレムの設置場所に程近い、駐竜場に案内されると
竜部隊の世話役から、必要な物資があるかとさえ聞かれた

居並んで体を休める竜達の中に一際大きな
数十倍の全長のモガミが巨体の膝をゆっくりと折り 腹を地面に下ろす



「いやー、罵声でも浴びせられるかと思ったけど そうでもなかったね もがみんもやっと座れるし」


(足はノーモンダイ それよりバクハツサウンドでイヤー=ペイン ドタマがガンガン)


「まあ、一年二国にボッコにされてりゃあ とりあえず取り込んでおこうって気にもなるさ 油断すんなよ」


「敗戦からずっとガルガディアに支援物資だしたり、色々してたからじゃないかな」
「けど、やっぱり完全には信用しないみたい 陣地の砲がいくつかこっち向いてる」

ヒジリが暗闇の向こうを見ながら小声で砲への警戒を告げる


「ま、そうな あーミロニ、セティは?」

「もがみんの頭の上で寝てるよ、寝かせとこ 流石に疲れてるだろうし」



太陽が姿を見せる束の間の休息

砲撃のススで汚れた顔を三人はガルガ兵に渡された濡れタオルで拭いあい
一緒に渡された硬い軍用パンと薄い肉の味しかしないスープに口をつけた

それは、銀鱗亭の中では考えられない粗末な食事だ
いかに自分達の家が別世界か、改めて感じる

見渡せばどの兵も自分の騎乗する竜の傍で同じもの
いや 明らかに自分達の量は多かった
騎竜と自分の食事を分け合っている兵もいるのだ
兵の糧食に事欠くほどに追い込まれている、これが一年現実だった

銀鱗のエンブレムを着けているのに、何故食料まで分けてくれるのか
宿のオーダーを無視していると思われているのだろうか

ほとんど盾にするために来たような自分達に向けられた好意が、痛かった


自分達が何をしているのか、何がしたいのか一瞬判らなくなった
犠牲を減らすべく単独で戦うのではなかったのか

自分の手にあるパンをくれたガルガディア軍は
戦うべき相手の筈ではないのか、何をどうすれば良かったのか


スペルビアで味わった苦い思い出がミロニの中で僅かに持ち上がる
しかし、顔には出さなかった 出すほどではなくなった

師の宿った服がここにある 仲間が二人、傍でつとめて明るく振舞っている
背中を預ける二人の竜とあえて離れて待機している鎧竜

あの時は1人だった、右顔の火傷を受けた時もきっと

今は違う、どうにかなる やれるだけやろう

そう言い聞かせると、背を任せていたモガミの首部装甲鱗を爪で弾いた



( ? )


「なんでもないよ」




装甲鱗をもう一度弾く、硬質な音が暗闇に響いた








僅かな時間、語り合う 仲間と そして

日の光が地平線から装甲鱗を照らす



「さー いくかー!! みんなっ」



全員が頷いて立ち上がりモガミの背中から吊るされたタラップを上る


(セティ起きる、ビッグ=バトルはじまる)


「…ん、起きてるよ ずっとね」


(しってる)


「もがみん」


(ん)


「一緒だよ」


(共にある)





大気を震わせ、装甲鱗が軋みあう威圧的な音を立てながら
200.6メートル、11200トンの巨体が4本の足で立ち上がり、存在を誇示する
同時に砲の固定が外れ、100センチ砲「ジェリコの角笛」が持ち上がり天を睨む

ガルガディア兵達は、これまで見たこともないその威容を見上げ
そして静かな地響きを立てて歩き出した巨竜を見送る、手を振りながら

かつて彼女の遠い祖先がそうであったように、砲を背中に背負い人を乗せ


朝日の柔らかな光をその背に受け

暗闇に溶け込んでいた暗紺色の姿が浮かび上がる

大地にその影を、砲を背負った勇ましい影を 一万年ぶりに大地は描いた

















地鳴りだ

眼前に広がるトライガルド軍・ザイランス軍のそれは壁が迫るかのごとき


号令とともに整列した飛竜が次々と飛び立つ
騎兵と歩兵が隊伍を組、出撃していく

ボーダトーチカの群れが立ち上がり、兵が踵を打ち鳴らす
既に突撃準備を整えつつあるボーダウォール騎士団

長官クレスカの手がゆっくりと上がる
その手の動きに合わせるように
緩慢な動作で満身創痍のボーダウォールが立ち上がった
ガルガディアの残存軍の全てが、これぞ最後の炎と


全てはこの決戦のために、この場で全てを出し尽くすために


日の出と共に始まったそれは 後に、こう呼ばれる





「三帝決戦」と










振り上げた手は  下ろされた























「やっぱねー!! そんなこったろうと思ったよ!!」

「ひだり、左ー!! もがみん左へっ わあああ!!」




最後の大会戦 歩兵と騎兵の激突から始まった戦闘
装甲竜モガミは集中的に火力を叩き込まれる

夜間、散々やられた恨みを全て込めるがごとき強襲
多数の飛竜が爆薬筒を大量に担ぎ、一斉に襲いくる
いかに連射銃を備え付けられたとはいえ
シマシマ一騎でどうにかなるものではない


「また来たよ! 次は10時 あれ あれ狙って!」


見間違えようもないその巨体は良い的であり
トライガルド・ザイランスの飛竜隊がそれこそ交互に襲いかかる

小型の飛竜に積める程度の爆薬では、モガミはどうということはない
それが千発もかくやと無ければの話であったが

乗員防護用のシールド魔法で、ミロニ達は辛うじて無事であったが
何時までも奇跡に近しい幸運が続くともかぎらない

あまりに目立ちすぎ、あまりに恨みを買ったがゆえの集中砲火

周辺のガルガディア軍にはそのため、空爆はそれほど行われず
いかに両軍が大砲「ジェリコの角笛」を恐れるか表していた
それに兵としても、これほどの存在なら武勲として申し分ないのだ

本人達にその意思がなくとも
囮として 攻撃吸収、被害担当艦としての役目は十分と言えた



(マトバタイム)



戦闘開始からすでに20時間


複数回の突撃を繰り返すガルガディア軍であったが
既にまともな突撃力を残しているのは
ボーダウォールただ一つとまで追い込まれ

前線は押されに押され、衝撃を吸収できない
そして制空権は奪われ、いいように空爆され
ガルガディア軍は戦力を包み込まれ削り取られ
徐々に後退を余儀なくされつつある

いかに前進していたとはいえ
モガミの至近にすら 歩兵が届きかねない距離まで追い込まれた

そこは防衛用の固定大型ゴーレムが設置された拠点
その前曲なのだ、抜かれれば防御陣地が1ブロックは機能を喪失する

ゆえに動けない、ガルガディア陸兵達を
一気に壊走させてしまう可能性があるのだ


だから 退かない 最大幅を持つ大街道

それを跨ぐように 四本の足でアーチを作り 立ちふさがる



「回頭右20!! 砲仰角-5 モガミもっとはやく!!」


ルーナの必死の照準も既に意味を失いつつある
眼前はすでに敵だらけなのだ

既に火砲を向けられだして久しい
対竜の大型火砲の少ないトライガルド軍ゆえに
装甲鱗で弾ける程度の攻撃とはいえ、その数は多すぎた

再び一斉に数発被弾するが、堅牢な装甲鱗は貫通を許さない
この冠絶した防御力がなくては、とうに屍を晒していたことだろう

被弾しながら旋回をどうにか終え、砲身が水平からより地面に向く


大轟音と閃光とともに徹甲弾が50メートルの砲身から放たれる


戦列を組む、オリオール自走弩砲ゴーレム中隊が列ごと砲弾に吹き飛ばされ
派手に爆発・誘爆するが、吹き飛んだ味方ゴーレムに一瞥もくれず
大地を埋め尽くすごとく、彼らは進む 進撃する

本当なら榴弾を叩き込みたいところだが
あまりに乱戦であり、歩兵を三国全軍巻き込めば大惨事である
たとえ自身が危険に晒されようとも、それだけはできなかった



次弾のため砲を持ち上げようとしたその時

砲が生み出した爆煙を突き抜けて
砲弾がモガミの後部デッキに直撃し炸裂する 


「…っかは ごほっ!  セ、セティ!! ヒジリ!!」


むせながらミロニが呼ぶ声にヒジリだけが答えない

セティは装填レールに転げ落ち難を逃れたが
デッキ上で防空射撃していたヒジリは爆風を受けて吹き飛ばされ転がった
どうにかモガミから転げ落ちる寸前 飛び出したセティに掴まれる

防護魔法のおかげで体が吹き飛ぶことは免れたものの
全身に大小の傷を負い、意識は戻らない
それを察したのかシマシマが咆哮を上げる、それはどこか悲しげだった


「ヒザクラさん!!」


そのままの流れでヒジリをヒザクラに転送させると
セティは入れ替わりに転送された砲弾を掴むや
レールに投げ落とすと 9トンの砲弾を殴りつけて装填した


「モガミー!! ごほっ…ま、まにあわん 膝をおとせぇぇぇ!!」

ルーナの叫びに答え
崩れ落ちるように前足を折ったモガミと共に下がった砲口が
いまにも取り付こうとしていた大型ゴーレムの鼻先に突き立てられ
あろうことか0距離という至近で火を吹いた

原型も留めず四散した残骸が周辺の兵を巻き込みながら燃え上がる

これが繰り返され、モガミの周囲はすでに火の海
それはモガミの体温を上昇させ、体力を徐々に奪っていく

装甲が溜め込んだ熱を排熱できなくなっているのだ
それは装甲竜最大の弱点である、熱による蒸し焼き



さらに十数発の砲弾が直撃し、上部構造物が少しづつ破壊されていく
砲装置そのものは遺失兵器ゆえの頑丈さか、機能は健在であったが
すでに長距離測定儀は全て失い、ルーナの肉眼照準しか意味をなさない

後部の装填デッキも含め装甲鞍は半壊に近い
モガミ自身もあまりに撃たれすぎ
時折意識が飛んでいるのか 動きが明らかに緩慢だ
このままではいずれ転倒し、動けぬまま火あぶりにされてしまう



「ルーナ! もうだめだ下がろう!」

いよいよ追い詰められだしたことを悟ったミロニは
戦況の助言を求めてルーナに声をかけた、しかし

「ルーナ!? ルーナ!!」


答えのない相棒の元へ向かって
彼女の居るはずの右舷側砲撃指揮所にミロニは走る

それを見た弓兵がミロニを狙うが、満身創痍のシマシマがそれを吹き飛ばす
シマシマ自身も装甲の多くを失い、連射銃の弾丸はもう僅かだ



右舷に走りこんだミロニの目に飛び込んだのは
砲弾が直撃し滅茶苦茶にひしゃげた指揮所の残骸

思わず友の名を叫んで取り付き半壊した扉を蹴り破る



潰れた鋼板に押しつぶされ、血まみれのルーナがそこにいた
しかし足は挟まれ、1人で救い出すことはできそうにない


セティを呼ぼうと銀鱗に手をかけた瞬間



大轟音とともに衝撃 吹き飛ばされたミロニは残骸に頭を打ち
そのまま意識が薄れていく、掠れる意識の中で見たのは

どうにか身を起こそうと意識を取り戻したルーナと

その手を取って転送をしようとするヒザクラの姿であった








「ロデリック様、装甲竜依然として健在 かなりの被害を与えていますが」

「バカヤロウ、もっと砲火を集中しろ アレが暴発してみろ、全員ミンチだぞ」
「足だ、左足に狙いを集中しろ、転倒させろ」
「あの様だ、もう立ち上がれはせんだろう」

「かなり砲を両足に当てていますが今だに…」

「全部だ 手持ちを全部つぎ込め 手を抜くな」






モガミは背中の仲間達が次々倒れていく姿がひたすら苦しかった

しかし自らの力ではどうすることもできない
砲撃を回避しようにも体は緩慢にしか動かず

あげく足は砲撃でもつれだし、のろのろとのた打ち回ることしかできない


そして唐突に砲撃が一瞬止む そして瞬間

圧倒的な量の砲弾が彼女の左前足に命中した、その数はゆうに100発以上
モガミの足に隠れながら、抵抗していたシマシマ
その衝撃ではじかれ転倒してしまう


さらにグラつくモガミに 止めとばかりにもう一斉射

派手な轟音とともに装甲鱗が剥がれて吹き飛び
ついにモガミの巨体が膝を折って前のめりに崩れ落ちた

長い首がしなりながら地面を叩き、衝撃で意識が飛びかける
1万トン以上の巨体が大地に落着する轟音と衝撃 砂煙が舞い上がる





意識を手繰り寄せたモガミは、背中の仲間達が救い出されたことを悟った
これであとは自分とシマシマだけ…
しかし吹き飛ばされたシマシマは装甲の残骸を残して姿が見えなかった

ヒザクラが上手くやってくれたのだろう


自分も逃げなければ、共に 約束

恥ではない、そういえば昔、あの時もそうだった
砂漠を逃げ惑った時もそうだった


あまりの痛みに左足に力が入らず、立ち上がることができない



地面を削りながら必死にもがく

立ち上がろうと 足掻く

血のあぶくを吹きながら吼える





容赦なく砲弾が叩き込まれる  











動かなくなるまで















「やってくれたぜ、お前」



凄まじい惨状に陥った自軍を見渡しながら、崩れ落ちた巨竜を見やる

本来であれば、ここを抜き ボーダウォールの側背を突く予定が
この巨竜、そして要塞ゴーレムと決死隊の防戦で
ついにここまで抵抗されきった、抜けなかった

攻撃の機会は完全に失われ
ボーダウォールの主砲がつい今しがた
自軍の本隊を吹き飛ばしたところだ


趨勢はついにガルガディアに傾いた


そしてボーダウォールの主砲が もう1度放たれようとしている

ロデリックはここからの逆転はないと判断した
後は可能な限り追撃を逃れ
いかに後退できるかにかかっている、長い傭兵暮らしで
この匂いを感じることは慣れていた

竜の死骸と要塞ゴーレムの残骸に一瞥をくれると
ロデリックと傭兵軍は風のように後退する


再び朝日が覗こうかという大地に残されたのは 

死体と死骸と残骸のみ



巨竜の戦いは 終わった



























日の出

歴史の日の出



ガルガディアを包む
2国の戦力を崩壊させたという歓喜の雄たけび

ファングヘイムを朝日が優しく包み込む


ガルガディアは勝利した










そして巨大な装甲竜が鱗と装甲の破片を撒き散らし
くず折れて、眠りに突く場所にも光が指す

力尽きた竜に寄り添うように座り込む 小さな姿がそこにはあった

全身ぼろぼろで
地面に半ば埋まったモガミの頭に縋る セルセティア=ジェンマ


モガミが沈もうとするその時 セティはヒザクラの手を取らなかった

共に、共にと 共に帰ると

直後に命中した砲弾の爆発でヒザクラとセティは引き離され
彼女は宿へ飛ばざるえなかった

しかしその後

撃ちまくられた衝撃で、セティは100cm砲の薬室の中に落ちたのだ
大砲弾の発射に耐える、堅牢な砲尾は 鋼鉄の嵐に耐え切った

それが彼女の命を救ったのだ







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「-----------------」

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もう動かない友に語りかけた言葉なんだったのだろうか

それは彼女1人にしかわからない

















ただ 判っていることは













































ボロボロのモガミが

セティを背中に背負って 
徒歩で宿に帰ってきたことだけだ


二本足で